【三浦コラム】シンガポールの大統領選挙について

 5月の国会議員選挙に続いて、8月には2期目の満期を迎えるナザン大統領の後任を決める大統領選挙が行われました。
 結果は元副首相であったトニー・タン氏が大統領に選出。民選大統領としては3代目・建国からは7代目の大統領となりました。

miuraoct11 シンガポール以外に住む方は、この国の大統領の存在を知らない人もいるでしょう。
 シンガポールのお札を手にした時に、男性の肖像を目にします。実はこの方は、シンガポールの初代大統領のユソフ(Encik Yusof bin Ishak)氏です。シンガポール建国当時の映像などを見るとリークワンユー元首相と共に映っているものを目にすることがあるかもしれません。

 国家元首となるシンガポールの大統領は、セレモニーなどの場で、その元首としての役目を果たす存在です。国庫金使用についての監査の権利を持っていますが、実質は象徴的な存在であり、政治的な実権は首相にあります(この役割に変更はない事、今回の大統領選前に有力政治家が、あえて大統領の職務範囲について言明)。

 

 今回の選挙戦までの大きなながれは以下でした。
・8月16日までに候補者審査
・8月17日資格審査に合格した候補者は規定の供託金持参の上、People’s Association HQへ立候補書類を提出
*12.5%より多くの得票率を得られなかった場合にはこの供託金は没収
・8月25日まで選挙戦
・8月26日はCooling-Off Dayと言われる選挙運動は禁止日
・8月27日 選挙日

 選挙当日に即日開票され、
・トニー・タン氏(元PAP国会議員 元副首相) 745,693票 35.2%
・タン・チェンボック氏(元PAP国会議員) 738,311票 34.9%
・タン・ジーセイ氏(元ゴーチョクトン元首相秘書) 530,441票 25%
・タン・キンリアン氏(NTUC Income 元CEO) 104,095票 4.92%
という結果でした。

 かろうじて7,382票差で、各種団体等が推すトニー・タン氏が接戦をおさえました。
 
 ナザン元大統領は民選とは言え、他に審査に通った候補者はいない為に、実際は選挙戦が行われませんでした。故オンテンチョン大統領を93年に選出して以来18年ぶりの今回の選挙には、4人もの候補者が出馬(6人が立候補を表明も2人は資格審査をパスできず、4人すべてがタン氏であったことも話題になりました)。しかも、その中には野党系人物もいるという異例の選挙戦でした。
 また、複数候補が国庫金の使途をもっと明確化すると有権者に訴えたのもある意味象徴的でした。

 圧勝と思われていたトニー・タン氏を、元PAP国会議員ながらも主流ではなかったタン・チェンボック氏が、あわやというところまで追い詰めたのも見どころでもありました。

 今までのシンガポールの政治は、いわゆるPaternalisticと揶揄される点があったのは、否めません。しかしながら、SNSの発達により情報の公開性が高まった事、豊かになってからのシンガポールしか経験していない有権者の若年齢層化により、政治と選挙民とのずれが生じ始めたともいう声もあります。

 色々な意味で、シンガポールの政治は変わりゆく過渡期にあるのだと意識させられる今回の大統領選挙でもありました。

シンガポールの過去の大統領
Enclik Yusof bin Ishak(マレー系)1965年8月9日~1970年11月23日
Dr.Benjamin Sheares(中華系)1971年1月2日~1981年5月12日
Mr.Devan Nair(インド系)1981年10月24日~1985年3月28日
Dr.Wee Kim Wee(中華系)1985年9月2日~1993年9月1日
Mr.Ong Teng Cheong(中華系)1993年9月1日~1999年9月1日
Mr.S R Nathan(インド系)1999年9月1日~2011年9月1日