【三浦コラム】本を読み、考える海外進出時のリスクについて

 ここ近年、中国のリスクが声高に言われてきた事もあり、東南アジア進出ブームとも呼べる一種の盛り上がりが、日本から来られる方々と会った時に感じられます。
 それを後押しする様に、目的が定かでない企業や個人の海外進出や海外転住(あえてここでは移住とは書きません)を煽る様な、その国の表面だけを見て来た様な本も多く出版されています。

 そう言う中で、先日手に取った1冊の本があります。

「誰も語らなかったアジアの見えないリスク 痛い目に遭う前に読む本」越純一郎(編)B&Tブックス 日刊工業新聞社

 長年ここシンガポールでコンサルタント業を営む私も、聞いた様な事例が複数掲載されています。ぜひお勧めしたい1冊ですが、ここではこの本より2つの内容を取り上げたいと思います。

・弁護士への依頼事項―P82から書かれてある「アジアにおける日系企業の法務リスクを考える」という章。

 シンガポールでも行き違いを原因とした法務ケースがたびたび起こっています。私の経験上も、社内規定、契約書など、その国のローカル・ルール(地元の法律)に基づくものを明確に文面化する事の重要性が理解されていない場合を多く目にしてきました。

 日本人というか、日本社会は、大企業といえども予防法務という考え方が薄い様に思われます。
 日本は稀に見る、誠実な人間の多い、良くも悪くも道徳・行動規範を共有した日本人を主に成り立ち、契約書を必要とせずに口約束が守られる、信用第一(その代わり信用をなくしたら、社会から放逐される程に厳しい一面もある社会ですが)、その様な習慣が未だに根付いています。
 異なる行動規範を持つ人々が競い合う海外に出ると、ご存じの様にこれでは舐められるばかりで、通用しません。

 日本企業の海外法人は、事が起こってから大騒ぎとなるのが多いのが現実です。 公になるのは氷山の一角です。
 合弁の相手側に騙されたり、下請けから訴えられたりして、初めて事の重大さに気が付くというパターンです。しっかりとした契約書を弁護士に依頼・作成しておく(少なくとも、社内で作成した契約書を専門家である弁護士のチェックを入れる)べきだったと、後悔した諸先輩も多かったのではないでしょうか。 
*この本では弁護士への具体的な依頼方法なども記載があります。
 まず契約書を作成しサインを求めると相手側が気を悪くするのではとか、弁護士費用を惜しむとか、訴訟を恐れすぎるとか、こういう発想をする日本人が未だに多いのです。

 海外に企業活動をおし進める会社は、こういった面でも、思考の切り替えが求められます。

・日本人コンサルタントに気をつける―P100から同じ第二部に書かれている「アジアにはびこる悪質日本人コンサルタント」をいう章。

miura7(2013) 「お前もコンサルタントじゃないか?天に唾を吐いているのではないか?」との嘲笑の声も聞こえてきそうですが、実はこれは残念ながらひとつの事実なのです。
 シンガポールでは周辺国で聞く様な、驚く様な手口は少ないと思えます。
 ただ、進出にあたって、良い事しか言わないコンサルタントには疑問の目を向ける必要があります。 業種によっても異なりますが、この国でのオペレーションは、プラス面とマイナス面があります。何故マイナス面を言わないのでしょうか?光あるところに影があるのは当然なのですが・・・・・・。
  いいことばかりを言うコンサルタントは、いいコンサルタントではないと、私自身考えています。人間誰かに後ろを押してもらいたいものであり、誰しもが冷や水をかけられる事は、避けたいものですが・・・・・・。

 この本にも書かれていますが、騙された人は得てして口をつぐむものです。よって、その失敗経験が共有化されない=繰り返されるという悪循環になります。 色々と事実を知った人達も、狭い日本人社会の中で逆恨みされるのも馬鹿らしいという理由により、特に自分に実害が無ければ、親しくない人には黙っているものです(内輪では話題になっても)。
 新たに来られた方が鴨になるケースが生まれる土壌がそこにあるのでしょう。

 そんな事を考えなくやってきたけど、何ら問題はなかったという方がいらっしゃったら、運がよかっただけなのだと、そうお考え下さい。

 顧客に一読を勧めようと考える程に、読書後に自らの経験と照らし合わせて、為になる1冊だと思えました。
 これから海外へ進出するという会社の責任者の方は、一読される事をお勧めいたします。