【三浦コラム】会社都合による従業員解雇の報告義務開始について考える。

 シンガポールは極めて労働者の流動が激しい社会と言われます。
 その根底には、労働者側の“今よりもいい条件・ポジションであれば転職”というメンタリティのみならず、雇用主側の契約の基づき理由の如何を問わずに解雇(低所得者には例外あり)という手段があるという点に象徴される労働市場が形成されているからでもあります。

 問題となるのはホワイトカラー(オフィスワーカー)の40代後半からの再雇用の場が少ないという事実です。
 会社としては当然ながら同じ能力であれば、若く、より給与の安い労働者の残留を求めるのは世の常ですし、それにともない限られた労働市場では冷酷な世代交代も起こり得ます。それは、中年以降の社員が解雇された場合には新しい仕事を探すにも同等の仕事を探すには困難となり、また何かしらの仕事を得るまでの生活もまた厳しいものとなる事を意味します。

 ちなみに、現行では雇用法上、勤続年数2年未満の従業員には、解雇手当を要求する権利がない旨が規定されています。3年以上の勤務の従業員の取り扱いに関しては雇用法に規定はありませんが、MOM(Ministry of Manpower 人材省 以下MOMと記載)としては会社の財政状態を勘案して、雇用者と従業員との間で解雇手当に関して交渉を行うものとしています。
 また、会社に労働組合が存在する場合には、労働協約が締結されているのが一般的で、その中に通常は整理解雇手当に関する規定が含まれていますので、その規程に定められた手当の支払いが必要となります。ただし、その金額は1年につき1ヶ月など、そういうけっして十全ではないレベルでの金額設定となっているのが通常です。

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 景気動向が危ぶまれている2017年であり、今後会社都合による解雇が増える可能性があります。
 そういう中、先日MOMから整理解雇に関して2017年1月1日からの報告義務を設定する旨の発表がなされました。

6ヶ月以内に5人以上の従業員を会社都合により解雇した場合には、監督官庁であるMOMへの報告義務が生じる新たなルール(http://www.mom.gov.sg/newsroom/press-releases/2016/1125-mandatory-retrenchment-notifications-from-1-january-2017)です。報告義務を果たさなかった会社には、最高5,000シンガポールドルの罰則が規定されはいますが、罰則としては軽いものです。

 報告義務を課す事は何ら整理解雇を抑制する意味はないながらも、この措置は何かしらの準備と考えるのが妥当ではないでしょうか?
 新たな制度を取り入れる意味を考えてみました。

 これは整理解雇の対象人数・その年齢・属性(ちなみに報告義務は外国人労働者にも該当します)などの正確な詳細情報を集める事を意味します。

 その先に何があるのか?いわゆる会社都合による整理解雇の詳細情報をもって次に何かしらの対策を行うとすれば、
・整理解雇規制・・・・・・整理解雇を行うに際し、妥当だと思われる客観的な会社の情報開示等を求める。
・失業保険の創出・・・・・・会社や自己負担を定めて、政府主導で失業保険制度を制度導入する(現在シンガポールには失業保険はありません)。
・整理解雇の年齢・国民(永住権保持者含)外国人の割合指定・・・・・・整理解雇に際し、どういうポジションや年齢の誰を選ぶかに関し、規制を設ける。
 あくまでも私の想像の域を出ませんが、これらのことが考えられます。

 シンガポールのCPF制度(自己拠出型年金制度)も制度の違いはあれ日本の年金制度同様に、それだけで老後は安泰というわけではありません。シンガポール政府も日本同様に老後も仕事を持つことを奨励しています。

 シンガポール政府は、国民の老齢化にともなう中高齢者失業対策というものに注目しているのではないかと思われます。
 今回は対策を設ける布石の一歩ではないでしょうか?