【三浦コラム】新首相就任に関して

24年5月15日にイスタナ(大統領・首相官邸)にて、ローレンス・ウォン氏のシンガポール第4代首相就任式がありました。

新首相は、シンガポール独立後に生まれた初の首相であり(1972年生まれ)、世界的危機だったコロナ・パンデミックへの国の対策を主導した政治家としも知られています。

新首相について

1997年、エコノミストとして通商産業省で公務員のキャリアをスタート(その後財務省や厚生省、公的機関にて役職を歴任)。
2011年、与党から総選挙に出馬し、政治家に転身(当選後から政府役職に就任)。
2014年、大臣に昇格。
2020年、政府のコロナ対策議長に就任。
2021年、次期首相に指定されていたヘン氏の指名辞退により、代わって重要閣僚の財務大臣に就任。
2022年、第4世代政治家への閣僚投票により圧倒的多数にて選出され、次期首相候補。内閣改造により、副首相に昇格。

一連を見ただけでも、(日本のメディアでは庶民派首相誕生という記載も見られるようですが)けっして凡庸な人物ではなく、そのキャリアからしても若いころから注目されていた人物のひとりだったのは確かです。
しかしながら、当初はリー・シェンロン元首相の後継者として挙がっていた同年代の政治家数人の中にはその名前はなく、コロナ・パンデミックというシンガポールが直面した困難な時期に急に頭角を現した人物です。
何よりもその若さは(当コラム掲載24年5月時:51歳)、選挙で与党が圧倒的な強さを誇るシンガポールにおいて、長期政権になるのは確かです。

宣誓式では新首相としてのスピーチがあり、内容はこれらからのシンガポールの方向性を示すものでもありました。

それを随所取り上げてみましょう。

シンガポールの過去・現在・これから(スピーチから)

シンガポールの価値観とは廉潔性・実力主義・多民族主義・正義・平等であり、この国の政治は秀でたリーダーシップ・政治的安定・長期計画の重要性を踏まえて政権運営をしていくもの。
先人者たち(過去3人の首相)の政策の受益者であることを自覚しながらも、これまで築き上げられた下地の上に、独自の政策を加味していくもの、より国民に寄り添う形になるのではないか?とも思えます。

早くも次世代(30代40代)リーダーの発掘も優先課題という、遠い先を見据えた、政治家の育成についても触れられました。
新首相の政権下で、新たな才能を見つけ出し競わせて、第5世代となる首相候補を見出していくのだと考えられます。

国際的地位は高く、世界から賞賛され信頼されているとシンガポールのことを自負しながらも、小国としての自覚を持ち、あらゆる紛争の中でも自国の権利と利益を守りながら、すべての国(人々)と友好を保つこと。
大国の思惑からは一歩距離を置いて、紛争に巻き込まれないという国の立ち位置を述べました。

多人種多宗教多言語など多様性に富み、強まった国民間の絆は、相手を否定するのではなく受け入れることで達成してきたのであり、多様性は足し算であり国民の結束感を生むものだと、シンガポール国民としての一体感の再確認を求めた形です。

シンガポールは多くの国と比べても高い経済水準にあり、教育住宅医療交通で優れたシステムの構築ができているながらも、より改善してアップグレードすることにベストを尽くさねばならないこと。
すべてのシンガポール人に恩恵があるように。物質的な成功に限らず、キャリア人生に意味や目的を提供。シンガポール人が夢を実現できるように支援すること。
活力ある経済を構築して、すべての人によい雇用を創出。
仕事と人生が有意義なものであるように、よりよいバランスを実現。
公正で平等社会を育む。
高齢者、社会的弱者、特別なニーズを持つ人々へのケア。
スタート地点や年齢能力に関係なく、すべてのシンガポール人が充実した人生を送れるように支援。

など、より個々人の幸せに対してフェアにサポートする政府の実現を述べました。

新首相と国民

シンガポールと国民の未来への政府の深い関与と意気込みを感じさせるスピーチでした。
独立・建国後に生まれた新首相は、この国の多民族文化に生まれ育ったシンガポール人です。
まさに今回の新首相はシンガポールの歴史をそのまま本人が体現する存在かも知れません。

就任スピーチからは、国民に訴えている熱情がありありと伝わってきました。
このような国民への呼びかけ演説は、日本の首相に持ちえないもの、と一種の感慨を持ちました。

歴代首相の就任期間
リー・クアンユー氏 1965年8月~1990年11月
ゴー・チョクトン氏 1990年11月~2004年8月
リー・シェンロン氏 2004年8月~2024年5月

宣誓式のスピーチ詳細は、こちら
PMO | PM Lawrence Wong at the Swearing-In Ceremony (May 2024)