【三浦コラム】2020年シンガポール総選挙を振り返って

2020年7月10日のシンガポールの総選挙(前回2015年9月から5年ぶり)は、93の議席を与野党192人の候補者が争う形になりました。
今回の選挙は新型コロナウイルス(Covid-19)対策のため、大型集会ができず、また選挙当日は投票場が混み合い、投票締め切りが22時までの延長となる異例の選挙でもありました。

シンガポールの選挙は、SMC(Single Member Constituencies)という小選挙区とGRC(Group Representation Constituencies)という複数候補者地区に分けられます。
*SMCは議員1人選出の地区、GRCは複数人数で勝利した党がすべての議席を得る選挙区(民族指定あり)

与党PAP(People’s Action Party)は選挙区をすべて取れるか?それともいくつか落とすのか?また、その得票率が前回と比べてどう推移するのか?

そして、注目された野党は、

  • 過去に大統領選挙にも出馬して惜敗したTan Cheng Bock氏率いるPSP(The Progress Singapore Party)。
    こちらの政党には、候補者としては立たなかったものの、現首相の弟であるLee Hsien Yang氏も参加。
  • 野党で長年議席を保っているWP(Workers’ Party)。
    党の顔として広く知られた国会議員だったLow Thia Khiang氏の引退がありましたが、過去の選挙戦(他の野党で立候補)で活躍し名を知らしめたNicole Seah氏を擁立。
    与党が、首相後継者の副首相を同選挙区に立てたのも、Nicole Seah氏が国会議員になることをどうしても阻止したい意思を感じました。
  • 選挙のたびに必ず動向が報じられる反与党の色の強いSDP(Singapore Democratic Party)。
    Chee Soon Juan氏が小選挙区で立候補し、どれだけ票を伸ばすのか?
  • RP(Reform Party)では、Kenneth Jeyaretnam氏(激しく与党と争った野党議員故J. B. Jeyaretnam氏の息子)が再度立候補。

この中で特に注目すべきは、PSPとWPの2党が議席を得るかどうか?また、その議席数は?というところでした。

結果は、与党83議席・野党10議席

PSPは選挙で議席を得ることができませんでしたが、WPはGRCを1つ加えて、3選挙区で10人の議席を得ました。

立候補者の総数からもわかるように、圧倒的に人的層の厚い与党が総数では勝利を収めるのが、シンガポール選挙です。
もちろんのこと、今回もそうでした。

与党得票率は61.24%という低いもの

ただし、民意を推し量るのに大事なのは、与党への得票率です。

2015年の総選挙は与党の勝利と言われましたが、与党の得票率は69.86%ありました。
しかしながら、今回は61.24%となり、複数の選挙区ではひょっとすると野党が勝つのではないか?という接戦。

61.24%という数字は、2011年の60.1%同様の低い得票率であり、実質的に与党の敗北感をにじませるものでした。

要点としては(上記記載と一部重複)

  • 2011年選挙同様の得票率の低さ61.24%は、93議席中83議席取れたとは言え、実質的な敗北。
  • 次期首相を含む次世代政治家たちへの国民の不安感。
    副首相が従来の選挙区からお国替えをしての立候補は、準備不足を感じた人が多かったようですし、53.41%でのかろうじての勝利はそれを裏付けるものとなりました。
    また、次世代を担うと目された候補者のセンカンGRC地区での落選は、与党にはショックな出来事であったはずです。
  • 野党は敗北したものの、惜敗の地区が複数あったのは、複数選挙区の逆転の可能性。
    現選挙制度では、GRCは50%以上を獲得すれば、すべての議席をとれるため、今後の選挙では大幅な野党議員の当選が考え得ます。
    今回の結果を受けて、与党主導による選挙制度の変更があるかも知れません。
  • WPの確実な議席増は、より国民重視の政策へ向かう可能性があります。

ワーカーズパーティーの選挙マニフェスト(PDF)
マニフェストには、EP(就労許可証)の発行に関して、Tighten Employment Pass (EP) approvalsという項目で述べられています。
https://d3bnzwrhehvhbjiwmja.s3-ap-southeast-1.amazonaws.com/The+Workers+Party+Manifesto+2020.pdf

  • 若者の与党支持離れが今後どう影響するか?
    若者が野党支持する傾向にあるのは、選挙後の首相の記者会見でも触れられています。

CNA記事より
Mr Lee said the result also showed a “clear desire” for a diversity of voices in Parliament.
“Singaporeans want the PAP to form the government, but they, and especially the younger voters, also want to see more opposition presence in Parliament,” he said.
https://www.channelnewsasia.com/news/singapore/ge2020-result-pap-lee-hsien-loong-general-election-12922974

そういう中、与党でも確実に票を積み上げた候補者もいました。
2回前の選挙では、色々と批判されていた与党PAP候補者(Tin Pei Ling)が圧倒的大差で勝利(得票率71.74%)。
シンガポールの国会議員は、その国土の狭さから住民との距離が近いため、その働きが直接評価されます。
この勝利は、政治家として住民に評価されている証に思えます。

前回の選挙は与党が圧勝と言われましたが、建国の父と言われるリークワンユー元首相死去の余波が与党に有利に働いたのは否めません。
改めて、国民の与党離れが進んだ印象の今回の選挙です。

国民の支持を確保し続けるため、どういう方向を政府与党PAPが模索していくのか?これから注目したいところです。