【三浦コラム】シンガポールのCPFについての省察
今回はシンガポールのCPFについて考えてみましょう。
CPF(Central Provident Fund)とは、いわゆるシンガポールの積立年金制度ですが、日本での年金制度とはその制度の思想が異なります。
まず制度について分かりやすく、かつ簡単に説明しますと、CPFはあくまで自身の積み立てた資金を政府系会社が運用、その益の一部をその口座額に応じた利子として加えて、個人のCPF口座に保持しておくというものです。
現在はシンガポール国民、永住権保持者(PR)がその対象となっています(1995年以降EP保持者はその対象から外されました。それ以前も日本企業は駐在員に関しては日本の年金とダブルでの負担にならないように、申請による除外措置を取っていました)。
CPF口座保持者には、1年に1回積立金の明細が手元に届くと共に、インターネットでの個人認証番号(シンパス)を使用してCPF Boardのホームページより随時詳細を見ることができます。積立金は、特定の年齢(現行55歳)に達した時に、年金として運用される原資最低限を残し、引き下ろしが可能です(CPFへの積み立ては低率ですが収入に応じ続きます)。
雇用者は社員(被雇用者)の月々の給与から20%天引きし、それに雇用者負担分(2010年2月現在14.5%)を加えたものを、給与月の翌月14日までにCPF Boardに納める義務があります(50歳まではこの率となっています)。
ボーナスにも同等割合を納めることになります。
計算のベースになる月給の最高額(2010年2月現在4,500ドル)が設定されており、また年額納める上限も設定されていますので、雇用者としては高い給与を払っている社員(被雇用者)へのCPF負担が青天井になることはありません。
また、役員へ払う役員報酬などはCPFの対象外です。
企業側の負担は、当国を襲った不況だった年86年からは10%~20%の間を推移しています。直近の推移(民間企業40歳の場合、企業負担のみ記載)を見てみると、下記のようになります。
1999年1月1日~10%
2000年4月1日~12%
2001年1月1日~16%
2003年10月1日~13%
2007年7月1日~14.5%
企業側の負担を考慮に入れた柔軟な措置が取られています。
CPFは住居を購入した折のローンの返済や子供の学費にも使えたりと、ある程度柔軟な使用も可能となっています。
特に住居の購入資金としてローンの返済に使用できることで、持ち家率を上げたことは、社会の安定を保証する要素の一つであったと言っても過言ではないでしょう。
また、確定申告となるシンガポールの所得税算定の控除対象に、このCPF従業者負担金は加えることができます。
社会保障面では、小さな政府のシンガポールです。
庶民にとってはCPFとしての積立金のみで老後の生活がすべて補えるわけでもなく、この制度は違う面から見ると現在のシンガポールの家族の在り方=社会に根強く残る子が親の老後の面倒を金銭面も含めてみるのが一般的、という面からも支えられているのでしょう。
海外に移り住み、長年そこで暮らした経験から、新たに海外に移り住む方々にぜひ一考とご提案したいのは、老齢となった折に確かな年金制度・医療制度がどれだけありがたいかということです。
そういった観点から、CPFという制度を考えるということは、とりもなおさず日本の年金制度を考え直すということでもありましょう。
CPF Boardのオフィシャル・サイトはこちらです。合わせてご参考下さい。
*補足:企業負担率の変更について
2011年3月~15.5%に変更
2011年9月~16%(計算のベースになる月給の最高額5,000ドル)に変更