前回、年金制度(2)では、日本の公的年金制度(国民年金・厚生年金)の概略を確認しました。

今回はシンガポールの年金制度の構造や仕組みをご説明いたします。

シンガポールの年金制度を語るに欠かせないのは、年金実施機関であるCPF(Central Provident Fund Board 中央積立基金)であり、当機関がシンガポール居住者(国民・永住権保持者 *永住権を持たない外国人は除く)のCPF口座を管理管轄します。

CPF口座への積立金は、老齢年金・住宅購入資金・医療費用・指定保険購入などで利用可能ですが、ここでは主題の老齢年金(以下、年金と記載)について取り上げます。

シンガポールの年金は、CPF Life(終身年金)とRetirement Sum Scheme(自己積立金年金)という2種類が並立存在しており、現在前者へ移行中です。

その内容ご説明前に、まずはCPF口座への積立金について、見ていきましょう。

シンガポールの年金は自己積立金が原資

過去にコラムでも取り上げましたが、シンガポールの社会保障制度を支えるのは、シンガポール居住者の持つCPFへの積立金です。

民間企業に働く社員の場合、各自の収入(給与の20%)と企業からの拠出金(給与の17%)が、企業の責任において社員のCPF個人口座に振り込まれます(積立金納付は、給与・賞与支払い月の翌月14日まで)。

年齢により、その納付率が定められています(下記表参照)。

年齢 社員負担 会社負担
55歳まで 20% 17%
55歳から60歳 13% 13%
60歳から65歳 7.5% 9%
65歳から 5% 7.5%
  • 民間企業従業員に適応(月給750ドル以上 月給750ドル未満は別表あり)。
  • 算出給与上限:月6,000ドル、算出年間金額合計上限(賞与も含めて)年102,000ドル。
  • 2019年7月現在(納付金の割合は、景気状況なども加味されて、変更されることがあり)。
  • 55歳を超えても、給与がある場合には、定められた金額がCPF口座(一般口座・特別口座・医療口座)に積み立て続けられる形。
  • 永住権保持者は、3年目から上記利率(永住権を取った1年目・2年目は別表あり)。
  • 公務員の場合は、別表あり。
  • 自営業者は、Medical Account(医療口座)以外は任意積立。
  • CPF口座は自己積立のため、専業主婦は日本の第3号被保険者に該当するものはなし。

CPF への積立金と4つの口座

社員の給与からの天引き分と会社からの拠出金を合算した金額は、年齢により定められた割合によって、CPF口座内にある3つの口座に積み立てられます。

口座名 年利 用途
Ordinary Account 一般口座 2.5% 自宅購入・保険・投資・教育などに利用可能
Special Account 特別口座 4% 高利率で55歳時に年金積立金へ移行
Medical Account 医療口座 4% 医療に利用可能 利用条件あり、積立金上限あり
Retirement Account 引退口座 4% 老齢年金の原資
  • 55歳まで/Ordinary Account(一般口座)・Special Account(特別口座)・Medical Account(医療口座)の3口座積立金60,000ドルについて、+1%の追加年利(最初の20,000ドルは一般口座、残り40,000ドルは特別口座)
  • 55歳にて/既存の3つの口座に加えて、4つ目のRetirement Account(引退口座)が新設・・・・・・追加年利が加味され、引退口座の年利は、最初の30,000ドルは+2%=6%、次の30,000ドルは+1%=5%(引退口座設立後は、上記記載の他口座への追加年利はなし)
  • Retiremement Account(引退口座)にどれだけの金額を積み上げられるかによって、年金の受給金額が変動します。
  • 12月に定められた利子(上記)が各口座に加えられます。

起点になる年齢は、55歳と65歳

55歳・・・・・・Retiremement Account(引退口座)開設、申請による余剰積み立て金の口座からの引き下ろし可能。

65歳・・・・・・引退口座の積立金を原資に、年金支給開始。

*受給年齢は日本同様に60歳から65歳と引き上げられています。

1944年より前生まれ(60歳)、1944年~1949年生まれ(62歳)、1950年・1951年生まれ(63歳)、1952年・1953年生まれ(64歳)、1954年生まれ以降(65歳)

CPF Lifeとは

シンガポール人の少子高齢化に伴い導入された終身年金制度。

1957年生まれまでの人は、その前の年金制度Retirement Sum Schemeを利用(80歳までに、CPF Lifeに移行申請可能)。

1958年1月から1961年4月30日の間に生まれた人は、引退口座に55歳時に40,000ドルもしくは65歳時に60,000ドルあればCPF Life。

1961年5月以降生まれの人は、65歳時に60,000ドルあればCPF Life。

大きく異なるのは、Retirement Sum Schemeが引退口座の残高が無くなる時点で年金受給が終了するのに対して、CPF Lifeは終身保険となります。

また、本人死去の場合には、Retirement Sum Schemeの場合には引退口座の残金が相続されるのに対し、CPF Life加入時の引退口座の残高に関係なく遺産金が定められています。

CPF Life 年金の受給プラン

CPF Lifeの年金受給プランは、3つあります(2018年1月から)。

  1. Standard Plan・・・・・・通常のプラン(リクエストを出さない場合には、自動的にこちら)。
  2. Basic Plan・・・・・・受給額はすくなく、亡くなった場合に遺族にお金を多く残せるプラン。
  3. Escalating Plan・・・・・・年を取るごとに受給額が増すプラン。

CPF Life 生涯年金の受給見込み額

2019年に55歳になる人の65歳からの年金見込み金額(2019年) Standard Planの場合

55歳時の積立金 65歳からの年金支給額
60,000ドル(480万円) 月540ドル~570ドル(4.32万円~4.56万円)
88,000ドル(704万円) ① 月730ドル~790ドル(5.84万円~6.32万円)
120,000ドル(960万円) 月960ドル~1,030ドル(7.68万円~8.24万円)
176,000ドル(1,408万円) ② 月1,350ドル~1,450ドル(10.8万円~11.6万円)
200,000ドル(1,600万円) 月1,520ドル~1,630ドル(12.16万円~13.04万円)
264,000ドル(2,112万円) ③ 月1,960ドル~2,110ドル(15.68万円~16.88万円)
  • ①Basic Retirement Sum、②Full Retirement Sum、③Enhanced Retirement Sum
  • ドルはシンガポールドル、()内は1シンガポールドル=80円で換算
  • 現在の為替レートの場合、Basic Retirement Sumが日本の国民年金レベル

2020年に55歳になる人は、下記(年々積立金上昇)。

55歳時の積立金 65歳からの年金支給額
90,500ドル(724万円) ① 月750ドル~800ドル(6万円~6.4万円)
181,000ドル(1,448万円) ② 月1,380ドル~1,490ドル(11.04万円~11.92万円)
271,500ドル(2,172万円) ③ 月2,010ドル~2,160ドル(16.08万円~17.28万円)

受給額を増やす方法

・引退口座へ積み立て・・・・・・年ごとに定められるEnhanced Retirement Sumまでの金額を積み立てることで可能。

特別口座・一般口座から引退口座への積立、CPF口座外からの積立など。

受給開始年齢の選択・・・・・・受給年齢を遅らせることで、受給額を増やすことが可能。

最高70歳まで受給年齢を引き上げることで、受給金額を引き上げ。

・家族からのCPF口座内金額移行・・・・・・積立金が足りない場合には、夫婦・子から親への積立金移行が可能。

引退口座金額で年金受給額を確認

CPFのオフィシャルサイト(下記)で、年金受給額・死去した場合の遺産金額などが確認可能。

増額分の金額・受給引き上げ年齢を入れてみると、給付額がどう変わるかがわかります。

https://www.cpf.gov.sg/eSvc/Web/Schemes/LifeEstimator/LifeEstimator

CPF積立金は本人の資産

55歳を超えても、引き出し申請をしない限り、CPF口座内の残金はそのままとなります。

また、企業に働き続ける場合には、上記で記載しましたように積み立てが続きます。

銀行口座の利子よりも高利子のため、そのまま残金を維持可能です。

日本人でこのCPF口座を持っているのは、現在は永住権保持者に限られますが、最終的に帰国する時には積立金をそのままにしておいても、残金を全額引き出してもよい形となっています(残金をすべて引き出す場合には、永住権を放棄しなければなりません)。

積立金は個々人の資産のため、もしご本人が死去した場合には、相続者にCPF口座内残金が引き渡されることとなります。

配偶者の場合も、相続者指定をしておくと、何かあった場合の相続作業がスムーズです。

 

シンガポールの年金制度の概略が把握できましたでしょうか?

シンガポールの年金制度も試行錯誤のようであり、随時修正変更がおこなわれています。

そういう中、ご説明しましたCPF Lifeの導入は大きな変化でした。

年金制度の根本思想が異なる日本とシンガポールです。

単純比較で、日本がいいシンガポールがいいでなく、全体を俯瞰する視点が必要です。

年金だけでなく、資産としての不動産・相続税の問題・公的な医療費助成等を総合して、その国に則した老後の資産形成というものを考えていかねばならないと思えます。

CPF(Central Provident Fund Board 中央積立基金)

https://www.cpf.gov.sg/members

(注)本コラム記載内容は、2019年7月現在のものです。シンガポールの年金制度は随時変更があるため、必ずCPFのオフィシャルサイトをご参考にされるなり、CPFのオフィスに確認を取るなり、事実確認を行ってください。


シンガポールで1989年に設立された弊社、MIURA & ASSOCIATES(三浦ビジネスコンサルタント)は、 創業から一貫してシンガポール進出希望の皆様に、会社設立及び設立後の企業支援を行っています。 当地のプロフェッショナルな協力チーム(弁護士/会計士など)と共に、皆様のお役に立てます様に、 シンガポール・東南アジアでのビジネス展開のご相談も承っています。