【三浦コラム】ナショナルデー・ラリーに見るシンガポール社会の現在

NDR(ナショナルデー・ラリー)は、建国記念日がある8月に、シンガポール首相がこの国の指針を国民に示すスピーチです。
新型肺炎COVID-19による異例の中止を挟んで、2年ぶりとなった2021年のNDRは、パンデミックの現状とこれからのシンガポールの対応について話が始まりました。

シンガポールの新型肺炎対応

今現在避けて通れない話題でもありますが、ワクチン接種率の上昇に伴い、新型肺炎に感染したとしても重症化しないという前提のもと、これまでのような強い規制は行わないという方針を明言しました。
シンガポールは新たな段階に入るという宣言でもあったのだと思えます。

さて、新型肺炎から始まったスピーチは、Economy(経済)・Society(社会)‐Lower-Wage Workers(低賃金労働者)、Work Pass Holders(外国人労働者)・Race & Religion(人種と宗教)など、多岐にわたりましたが、それは現在のシンガポールの社会を見るひとつの手鏡だったようにも思われます。

Economy(経済)‐国際競争力については、常日頃言われていることであり、誰にでも馴染みの深い内容でした。
Society(社会)‐Lower-Wage Workers(低賃金労働者)、Work Pass Holders(外国人労働者)・Race & Religion(人種と宗教)は、内政問題であり、こちらこそ現在のシンガポールを顕著に表す内容だったのではないか?と思います。

以下はこちらに注目してみます。

低所得者へのサポート

一般の日本人にはちょっと想像しがたい所得格差の激しいシンガポールでは、低賃金労働者へのサポートはますます欠かせない要素でもあります。シンガポールの年金制度の積み立てもできずに、老後の年金受給もできない層がさらに生まれてくるだろうことも、この国の懸念のひとつだと思われます。
また、Food Panda、Grab、Deliverooなどの配達を仕事としている人たちの傷害補償・組合・雇用主のCPF(シンガポールの自己積立型年金制度)など、通常の会社の従業員が持つ基本的な雇用保護がなされていないことについても、スピーチで取り上げられました。

新型肺炎パンデミック下で、低所得者の拡大が考えられる今、これらをどうするのか?具体的な対策が待たれるところです(配達員に関しては、対策が検討中)。

*シンガポール社会を読み解くのに重要なCPF‐年金制度‐については、以前掲載しましたコラム(2019年7月情報)をご参照ください。
https://www.miura.sg/archives/1884

シンガポールで働く外国人

さて、今回のスピーチに関する中、シンガポールで生活をする外国人である私たちに身近なトピックは、Work Pass Holders(外国人労働者 下記に該当するのは、その中でも高所得で働くオフィスワーカー)。そしてシンガポールに住むに際して、注意が必要なのは、Race & Religion(人種と宗教)です。
外国人労働者については、新型肺炎パンデミック以前からあった国民からの批判(外国人が国民の雇用を奪っている・所得格差がある)が、経済状態の悪化により顕在化しています。これに対しては、過去に就労ビザの最低賃金の引き上げが数度にわたり行われてきました。

今後もEP(エンプロイメントパス)とSパス‐双方が日本人が取得する就労ビザの種類‐の基準をさらに厳しくするともに、シンガポール人とフェアな雇用待遇を求めていく方針とのこと。
反面、シンガポール人にも就労ビザを持つ外国人が働く外国企業が誘致できるからこそ、シンガポール人の雇用も保証できるのだということを理解する必要がある旨が述べられました。

敢えて今回のスピーチで、デリケートだと首相本人が述べた外国人労働者(日本人を含む)について話したのは、ビザ取得をさらに厳しくしても、シンガポール人の中に沸々とした不満がなくならないのを不安視した表れではないか?とも思えます。
このことは、就労ビザ取得は以前ほど簡単ではなくなったものの、「シンガポールは外国にオープンでなければならない」という政府の主張を改めて確認できた気がします。

*シンガポールで働く外国人は、大きく分けてオフィスなどで働く高賃金層と建築現場やメイドとして働く低賃金層に分かれます。双方はまったく異なる条件下で働いており、同一視することはできません。シンガポール国民が不平等感を持つのは、オフィスで働く高賃金層の外国人です。日本人がシンガポールで働くのは、こちらに分類されます。

人種や宗教への尊重

シンガポールでは、新型コロナパンデミック下において、人種差別的なトラブルがいくつか発生しました。
それらは新型肺炎に関係する人種差別ではあったものの、シンガポールではいかなる理由であろうとも人種や宗教への差別や侮蔑行為は認められません。
日本人自身は自覚していないことですが、何にも寛容で自由な日本からシンガポールに来ると、不用意な発言をしてしまうことがあります。また、SNSに書き込みをしてしまうかも知れません。

この点は、特に新たにシンガポールに来られた方は注意したいところです。


去年は新型コロナパンデミックにより中止されたNDPですが、その時々の世相を示すものであり、これからのシンガポールを読み解くものでもあります。
来年は例年通りのシンガポールの将来を語る希望に満ちた首相の姿を見てみたいものです。

シンガポールの道路工事現場には、外国人労働者が多く働いています。