【三浦コラム】シンガポールの次期首相選出にあたり、この国のリーダーシップについて

次期首相決定

4月に、リー・シェンロン首相の後任(ローレンス・ウォン財務大臣)の指名がありました。
他の政府高官の同意も得ての決定であり、指名は自分の独断ではないと表明するところも、現首相らしく、興味深く感じました。

やっと時期リーダーが決まったな、というどこか安堵感があります。

Statement from Lee Hsien Loong Prime Minister of Singapore and PAP Secretary-General (Apr 2022) (シンガポール首相府)
https://www.pmo.gov.sg/Newsroom/Statement-from-Lee-Hsien-Loong-Prime-Minister-of-Singapore-and-PAP-Secretary-General-Apr-2022

シンガポールは、政治が社会・経済全体を牽引しているというのが、大きな特徴です。
その政治・政府の中心は首相であること、これも否定する人はいないでしょう。

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、ここで過去の首相を振り返ってみましょう。

歴代首相について

  • 初代首相 リー・クワンユー氏(1965年~1990年)・・・・・・強いリーダーシップを発揮。マレーシア連邦から独立した困難な時期のシンガポールの発展の礎を築く。首相引退後も内閣に留まり、後進の育成に努めた。
  • 2代首相 ゴー・チョクトン氏(1990年~2004年)・・・・・・初代首相を後ろ盾に、シンガポールの更なる発展を促進。首相引退後も初代首相ともに内閣に留まり、次期首相をサポート。
  • 3代首相 リー・シェンロン氏(2000年~現在)・・・・・・野党の躍進を受け、2人の首相経験者の内閣からの離脱を経て、国民の声を聞き物事を進める手法を確立。

上記は一般に言われている内容ですが、1976年からシンガポールに滞在している私の感じたことを、少しばかりお伝えしたいと思います。

1976年に私がシンガポールに来たのは、未だ20代でした。当時のリー・クワンユー首相に堂々たる風格とオーラを感じたものです。彼が当時50歳前半だったことを考えると、改めて驚きます。
強権的とも評される政治手法は、庶民に畏怖の眼で見られていました(ちなみに野党の議席はゼロ)。政敵には容赦ないその政治姿勢も相まって、在任中の庶民的な人気は今ひとつというものでした。

しかしながら、振り返ってみますと、市場も資源も国防も、何も持たずにマレーシアから独立して今の発展の基礎を作ったという実績(国民の持ち家率の高さ、汚職を許さない安全な社会なども、高く評価されるもの)は、称賛されていますし、明らかにリー・クワンユー首相の力量・努力によるものだったと思います。
*勿論のこと、シンガポール建国に関しては、有能な政府高官が複数存在し、すべてがリー・クワンユー氏ただ一人の功績ではありません。
また、首相を退くことを前提に、3人の首相公認候補(ゴー・チョクトン氏、トニー・タン氏、オン・テンチョン氏)を公にしていたこと。つまり、自分の後も視野に入れた行動を取っていたことも、改めて功績に考えてもいいのではないか?と思います。

彼の偉大さを国民が改めて身近に感じたのは、やはり元首相が死去した時でした。国民の喪失感というものを強く感じたものです。

ゴー・チョクトン首相に関しては、リー・シェンロン氏への中継ぎで、シンガポール国民も長くとも4~5年だろうと考えていた人も多いようですが、2004年までの14年間にわたる長期政権になったのは驚きです。
今から考えると、やはり彼が後任に指名されるだろうという国民の声が多かったように思いますし、この後任指名は実際に正しかったと思います。

リー・シェンロン首相に関しては、シンガポールの国のリーダーとして、より国民に寄り添う形で、国を引っ張ってきた形です。
シンガポール国民の多くが、初代首相の子息であることを差し引いても、充分に国のリーダーであることを認めるに異論はないところです。

ゴー・チョクトン首相もリー・シェンロン首相も、そつなく政治・経済を運営し、立派な後継者であると思います。

ただ、国民目線では、現首相下ではかなりマイルドにはなって以前ほど目立つこともないですが、やはりどこか初代首相からの政治手法を引き継いでおり、強権の衣を羽織っているようにも思われてもいます。

後継者へのバトン引継ぎ

リー・シェンロン首相の後任は、実は次期首相として指名されていた人物はいたのですが(2018年のコラムに記載)、先の選挙後に自らその地位を辞退したため、白紙に戻されました。そして新型肺炎のパンデミックという世界的な危機が到来したのも重なり、新たな後任の指名が先延ばしになりました。

確かに辞退と新型肺炎パンデミックという予想外のことはありましたが、それを加味しても現首相はゴー前首相を超えて既に18年目、後継者指名がたいへん遅かったことが不思議です。

ようやくの今回の選出ですが、政府高官たちが慎重にも検討を重ねた結果がこの判断となったと思われます。

圧倒的に政府与党が強いシンガポールでは、次期選挙も政府与党は間違いなくその地位を保ちます。
また、新型コロナパンデミックを乗り切る主役を演じたローレンス・ウォン氏ですが、選挙も順当に勝ち抜くでしょう。

ただ、発展したままの国がないように、これからのシンガポールは、予想もつかない様々な困難がありでしょう。

どう国の舵取りをやっていくのか?国民は新たな政府首脳にどういう感想を持つのか?

2年前の次期首相レースには名が挙がっておらず、新型肺炎パンデミックという国家的な危機に名を挙げたローレンス・ウォン氏が、どのようにこれからのシンガポールの未来を引っ張っていくのか?

色々と注目していきたいところです。