【三浦コラム】2011年選挙後のシンガポールについて

5月7日に行われたシンガポールの国会議員選挙は、結果は87議席中与党PAPが81議席を占める、数字の上では圧勝で終わりました。
ただし、既にシンガポールに興味がある方が各種のメディアによっての情報によりご承知の様に、野党が勝ち得た6議席は大きな意味をもつものでした。与党PAPの得票率は建国以来過去最低の60.1%であった事。そして選挙後の、首相経験のあるリークアンユー、ゴーチョクトン両氏の内閣からの引退は大きな反響を呼びました(それぞれ旧内閣での大臣名はMM=Minister Mentor、SM=Senior Minister)。

今回はシンガポールの2011年の選挙についてお話したいと思います。

 

今回の選挙は、野党がほぼすべての選挙区に候補者を立てるという過去にないものでした。その候補者の顔触れも過去の選挙と異なり、この様な人も野党から出るのだ、という驚くほどの層の厚いものでした。
選挙戦に入り、野党の攻勢・世間の批判にさらされた与党は、首相が過去にない異例の謝罪を国民に対し、表明した程です。
結果、1988年に導入されたGRC(グループ選挙区)で初の敗北をした与党は現職の外務大臣が落選、SMC(小選挙区)1議席と合わせて6議席が野党の手に渡りました(改選前は2議席 選挙後に国会での権限が限られるNCMP=非選挙区議員に、得票率の高かった3人が野党2党から選ばれました)。

国民を突き動かしたのは、首相が謝罪をした内容(テロリストの脱走事件・MRTでの混雑・住宅の高騰・オーチャードの冠水)と選挙後にすぐに着手した高額な大臣給与にあったとも言えるでしょう。組閣の顔触れを見ても、批判を受けた内容担当の大臣の事実上の更迭など、ある意味国民の声を反映したものとなりました。
シンガポールは建国以来与党PAPの強い政策推進力によって経済発展してきたと言えます。このスタイルはある意味家長的なものであり、少数のエリート層が国民をひっぱってゆくというものでした。
当然ながら既存のメディアもその影響下にあったと言っても過言ではありません。しかしながら、今回の選挙戦では、ツイッターやフェースブック、そしてYouTubeという新しいメディアによって既存のメディアの論調が引っぱられるという様な事も見受けられました。今までのシンガポールでは考えられない事です。

さて、選挙が私達外国人に与える影響は考えられるでしょうか?

確かに外国人が自分達の雇用を脅かしている、不動産価格の高騰は外国人の競う様な高額での購入がその原因だとの不満がある事は確かです。
ただ、私はシンガポールの主たる政策はゆるぎないものだと考えております(既にPR取得は難しくなっていますし、日本人などのEP取得条件も大筋4大卒という事になっていますが)。この国が発展する為には、外国人が持つ特殊能力・肉体労働などの国民が嫌がる低賃金労働力が、変わらず必要です。低い出産率による人口の自然減少による経済の停滞を避ける為、一定の移民(新シンガポール人)の受け入れも変わりがないと思います。

もう少し野党が議席を取るのでは?と思っていた私個人の感想は、私達外国人が思っているよりシンガポール人の多くは依然として保守的な考えを根強く持ち、決して現政権を100%否定するつもりはないという事・ドラスティックな社会変革は望まないという事です。
それは生活者の現実感覚として、現政権を否定して今の生活を失うつもりはないという事かもしれません。